話は以上、とばかりに。あっさり腰をおろしてミルキーの紙包みを開く太い指先に。
ああ、気を遣われたんだと思い当たる。
私を向かわせようと。
私に大義名分を与え、葬儀に行かせてあげようと。
そうでもないと、この平日に“彼氏”のご家族の不幸事に顔を出すなんて出来ない。
この人なりに、気を遣ってくれたんだ。
『・・・承ります。』
「うん。よろしくお願いしますね。」
勘違いは勘違いのままだけれど。
私への気遣いは、紛れも無い本物。
小堺さんは、頼りになるかは別問題として心根は優しい人。
最近はイライラするばかりで忘れかけていたことを思い出して、温かい気持ちで席に戻った。
さて、やっぱり二課に詳しい話を聞かなくっちゃ。
今日のお通夜と、明日のご葬儀について。役員と課長の名前を出せば、難なく教えてもらえるはず。
ここでエリーを避けるのも、逆におかしいよね。
そう思って、内線を鳴ら__________
____________したと思った、途端。
“はい、営業企画第二課、木崎がお取り致しました。”
『あ、えと、』
間髪入れず耳に飛び込んできた、予想もしていない女性の声に面食らう。
私、エリーにかけたよね??
覗き込む電話機の液晶には、
「Kizaki 7272・・・」
木崎、と名乗った彼女の名前と若い社員番号。
もはや間違ったかも分からない、この状態。
“江里さんなら外出中です。お戻りは夕方の予定ですが。”
良かった、エリー宛にかけた電話がピックされたんだ。
ホッとしながらもまだ反応できない私に、“木崎さん”が言葉を被せる。
“もしもし?”
『あ、秘書室 牧役員付きの藤澤です。お疲れさまです。』
だいぶ遅ればせながら、やっと名乗りを入れる。
“お疲れ様です。江里さんへの御用なら、私が代わりに伺いますが。”
この木崎さんは。
社員番号からしてだいぶ年下のようだけれど、早口でキビキビしていて。
私は何故か、妙に焦る。
『あ、ありがとうございます。
清宮さんのご家族の件なんですが、こちらの役員が弔電を差し上げたいと申されてまして。会場の詳細など、お伺いできないでしょうか?』
“・・・少々お待ちください。”