翌日、寅次さんの弔辞は「営業企画第二課 清宮柊介さんのご尊父がお亡くなりになりました。」といつものように社内の電子掲示板で共有された。

これまで他人事として見過ごしてきた、この社員関連の弔辞連絡も。
今回ばかりは、胸を刺すものがあって。



「お悔やみ申し上げます。」課内の先輩たちが、気を遣って声をかけてくれる。
今の立場的に、どう返していいのか分からなかったけれど。
気持ちだけは受け取って、ただ頭を下げた。



大阪出張中の牧役員から、メールが入る。

“弔電の手配を。”

個人名義ですか?と返そうとして。

“牧 大登で。”

やっぱり個人名義で出すんだと解して。


牧さんと柊介に、そんな付き合いがあったことを今回初めて知った。
寅次さんが危篤になった時も、一緒にゴルフ中だったって言ってたもんね。


“承知致しました。”と一言返した。



電子掲示板には、「親族のみで〜」の記載だけで葬儀場の場所が分からない。
二課に電話してみるか。流石に所属部署だから、もっと情報があるはず。

二課なら__________エリー?


内線に手を伸ばしたところで、小堺課長から呼ばれる。



「藤澤さん。」


呼ばれて近付く彼のデスクには、今日も甘いおやつが散らばる。


『お呼びでしょうか。』

「うん。」


ミルキーが似合う課長なんて、うちの会社で小堺さんくらいだな。


「清宮くんのお父様の件は、残念でしたね。」


そうだった、この人も私たちが婚約中であると勘違いしている人の一人。
強く強く、勘違いしている人の、一人。


『恐れ入ります。』

「それでね、お通夜にお香典を届けてもらえませんか?生憎、今日は僕も向かえなくてね。」


お香典?一瞬ハテナ?が浮かんだけれど、すぐに自分の今日のスケジュールに上書きされる。


『申し訳ありません、私も今日は午後の会議に出席します。』

「ああ、そうでしたね・・・。」


お香典なら、二課の誰かに託せばいい。
直属の上司なら出席するはずだから、今から申し出れば十分間に合う。


『あの、二課で向かわれる方を確認してみま、』

「それでは明日でいいですから。明日の予定はどうですか?」




明日。
明日なら、一日在社でデスクワークを取ることにしている。


『明日なら____________伺えます。』

「そうですか。では、明日お願いしますね。自分で用意して後でお渡ししますから。」