一階の受付にいた眞子が、この世の物ではない物を見る目で私を見た。

月曜昼前の、社内・社外の人が行き交う慌ただしい時間。

私服姿の柊介が、スーツ姿の私の手を引く。
十分に目立つ私たちは、ここに来ても四方からの視線を痛いほどに集めて。


私は眞子に手を振ることも、頷くことも出来ずに。
足早な柊介に、殆ど引きずられるようにしてロビー突っ切る。






駐車場に見える、白のハリアー。随分離れているのに、柊介に反応してちゃんと光った。

掴まれた手首のせいで歩きにくい。込められた力は相当で、痛痒い熱を持つ。


『柊介、痛いっ・・・』

「・・・。」


無視してるのではなく、本当に耳に届いていない様子。
もう何度めかのため息を飲み込んだところで、車のドアが開いた。


「乗って。」


急に、エリーが浮かんだ。
咄嗟に口を開こうとした時には、もう運転席に回り込んでいく柊介。
仕方ないから、開けられたドアを潜って助手席に腰を下ろした。


私を見つめるエリーの瞳。
あの温もりを、裏切りたくない。





『柊介、私ね、』

「昨日は悪かった、何度も電話くれたのに掛け直せなくて。」


全く感情がこもってない。心ここにあらずのまま、柊介は言葉だけで私を労い、バックミラーを合わせる。


『ううん、大丈夫。私こそ土曜日はごめんなさい。ねぇ、聞いて。私、土曜日ね、』

「シートベルトして。」


あからさまに先を急ぐ気配に、負けそうになる。
だけどこのまま、何も話さず連れて行かれるわけになんていかない。

何処に行くのか知らないけれど。キッチリ、させておかないといけないことがある。






『私、週末エリーといたの。』


シートベルトを引く柊介の手が。


『エリーの家に泊まった。』


やっと、止まった。



「・・・そう。車出すよ。」



_____________はず、だったのに。

フリーズしたのはほんの一拍。
止まりかけたシートベルトは、カチリと最後まではまって。
そのままエンジンがかかる。



『そうって・・・!ねぇ、ちゃんと聞いてよ?!』

「その話は後でいいか。」


揺れ出した車体。心なしか、普段よりずっと大きく感じる。

柊介のハンドルさばきが、荒いせいかもしれない。




ぞんざいな扱いに、カチンとくる。
急にやって来て、人攫いみたいなことしておきながら私の話は聞かないなんて。


『ねぇっ!一体どうい、』

「頼むよ、十和。」


月曜の外苑前は今日も車が多い。何度も二人で通った、見慣れた景色は。








「親父が危篤なんだ。」





柊介の一言で、何もかもが合成のように浮いた。