「女性ですよ。デートに行くのに相応しい格好で、上から下まで全部。
センスは任せます。何パターンか用意して。
ヘアメイクも、全部一時間以内ですべて片付けて欲しい。それとなくプロと分かるようにね」

理貴は、そこまで言うと、電話を切った。

「急ぐよ」

先を急ぐために、半ば強引につないだ手を伊都に引っ張られる。

意外と意志がハッキリしている人だ。と理貴は思った。



「あの、理貴さん。あまり大袈裟なのは困ります」

伊都はさっき、理貴に繋がれた手を離そうとしていた。が、逆に理貴に強く握り返された。

伊都は、彼が静かに座って、仕事をしている姿しか見ないからこんなに力強く、ぐいぐい引っ張って行く理貴の姿を初めて見た。


「ごめん、時間がないから、ついできるだけのことはしようと思って……」


「すみません。私のためにしていただいてるのに…」


「君の為だけじゃないよ。君といると楽しいし、毎日美味しい朝御飯用意してくれてるからね。これは、そのお礼」


マンションからショッピングモールへ移動する間も、理貴といると、いつもと違うと言う錯覚に陥る。


伊都は自分まで、ひとかどの人物になれた気がするのだ。