「もし、済まされなかったら、内藤家の御曹司辞めるけどいい?」
「いいって、なんで私に聞くんですか?」
「俺、もう親から譲り受けたものはどうでもいいと思ってる。そうじゃなくて、一からビジネスをやりたいんだ。ここから、侍を捨てて商人になった先祖のようにね」
「理貴さん、正気ですか?」
「もちろん」
「今はまだ、何のイメージも浮かばないが、受け継いだものを守るだけの人生は嫌なんだ。だから、親父に跡継ぎにはしないって言われるかもしれないけど、いいかな?」
「いいかなって、私に聞いてどうするんですか?。それは、理貴さんが決めたんでしょ?私がどうして反対するんですか?」
「だって、余計なこと言わなきゃ、黙ってても大会社の御曹司の妻になれるんだよ」
「そうしたかったら、そうしてください。私は、どちらでも関係ありません。理貴さんのために働きますから」どちらでも?と理貴は思った。
「君は、俺が何を選ぼうと構わないの?」
「普通そうですよ。いくら、好きな相手でも、その人の将来にまで口は出せません」
「いいの?」
「ええ、何度も聞かないでください」
理貴は、決心を固めようと思った。
彼女がいれば、それでいいじゃないか。
中小企業の社長のまま終わるかもしれない。伊都なら、それでいいというだろう。
もし、父が彼女と結婚することを反対すれば、俺が受け継ぐべきものなんかすべて弟にくれてやる。そうしよう。それでいいじゃないか。
フロンティア精神、この町でやってみたかったことは、まさにそれじゃないか。
制限された人生だって、自分で限界を決めていただけなのだ。
どんなに大きな選択だって、選べないわけじゃない。
彼女といると、そんなことも可能なんじゃないかと思えてくる。