館野先生は、チラッと伊都のほうを見た。
「あなたがレシピを考えたのね」
「はい。本に載せるかどうかも全部私の考えです」
「そう、それで、どうしてあのレシピなの?どれも十年以上前ので、あの本だって、今では本屋で流通してないでしょ?」
「レシピは、隅々まで頭に入ってます。ぼろぼろになるまで読みましたから」
「あら、そう。でもね、いくら古くて忘れ去られたレシピでも、あれを作り上げるのに、私たちは、ものすごい苦労をしたのよ。
横から勝手に持ち出して、自分の手柄にされるのが一番腹が立つわ」
伊都は、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。私にとっては、あの本に書いてあることは、野菜を洗ったり、肉を切ったりするのと同じくらい自分のものなんです。決して、自分の手柄にしようとしたのではありません」