タクシーは、東京方面に向かい、しばらく走って、フェンスで囲まれた広い庭の前で止まった。素晴らしいお家だ。以前、テレビで見たことがあった。


広い敷地に自然を模したイギリス庭園が見える。

この庭に多くのハーブが植わっていて、館野先生は、ほとんど自宅で栽培したハーブを料理に使っている。

憧れの場所だった。こんな場所に住めたらいいな。

テレビを見てずっとそう思っていた。


感傷に浸っている間もなく、先を歩いて行く理貴を追いかける。


理貴は、ビルのような頑丈そうな、瀟洒な建物の前で止まった。


確か、先生の主張は、食事だけでなく生活全般に及び、自宅や庭から生活の提案をしていくというものだ。

ここには、お弟子さん達や料理を学びに来る生徒さんがたくさんやってきて、先生が考えた生活の提案を学んでいく。



普通の訪問なら、のんきに庭の話も出来るけれど、今日は、自分の至らなさのために、
理貴まで巻き込んで謝りに来ているのだ。


伊都は、いっそう気を引き締めた。



これ以上嫌われないために。


ガチャッと鍵が開く音がした。

「いらっしゃーい!!」
フレンドリーな出迎えに、伊都も理貴も面食らった。


「あらま。カップルでお出まし?リッキーったら、やっと彼女できたのね!!」


「おばさん、今日はすぐ来いって言われたから来たんですよ」


「そう怒んないの、ところで、彼女は?まだ高校生じゃないの?」


「何ですか、そのにやけた顔、俺だってまだ高校生です」


「まったく、あなたって若年寄みたいね。あなた。七つの頃からそうだったから。変ってないわね」


「ふざけてないでください、はやく要件、言ってください」

先生は、自宅でくつろいでいるような、動きやすい部屋着のようなものの上にエプロンをかけている。

自分を呼びつけたのは、どういう理由だろうかと伊都は思った。