「なんだ、これは」
「チョコよ。見て分かるでしょ」
「俺に、くれるのか?」
里香が俺にこんなことをしてくれるのは初めてのことだった。俺はどう反応していいか分からずにいた。
「か、勘違いしないでよね。チョコが、そう。チョコがたまたま余っちゃったから"仕方なく"あげるだけなんだから。有り難く思いなさいよ」
「つまり、これはお前の手作りってことか?」
「な、なによ。文句あるの?」
「い、いや、別にないけど」
「の、残さないでよね」
そう恥ずかしそうに言った里香の顔は赤く染まっていた。
「お前、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか」
俺はそう言った後、里香の額に手を当てようとすると、里香は驚いた様子で俺の手を強く振り払った。
「な、な、なにするのよ。いきなり。セクハラで訴えるわよ」
「熱があるかどうか確かめようとしただけじゃないか。何をそんな慌てる必要があるんだ」
「あ、慌ててなんかないわよ。馬鹿。もう、知らない」
里香は教室内の机にぶつかりながら、足早に教室を出ていった。まったくもって女子という生き物は分からないものだ。どんだけ勉強しても、女心というやつは理解できそうにない。
俺は里香から貰ったチョコを一人見つめながら、そう思った。
 そして約十年後、俺は里香と結婚することになるのだが、それはまた別のお話。