物凄い勢いで腕を引っ張られたかと思うと、私は次の瞬間引きずられるようにして席を立たされた。そのままずかずかとロックな歩幅で歩き出すしずえちゃんに着いて行く形で、足をもつれさせながら教室の敷居を飛び越える。

 おしゃべりやお菓子の交換で廊下は賑わっていたけど、あまりに鋭い形相でしずえちゃんが進行するので、みんな自然と脇に逸れた。

 階段を一段飛ばしで下りながら、しずえちゃんはぶつぶつと呟く。


「ふざけたことしやがってあのババア、前々から気に食わなかったんだよ。いちいち軽音楽部のライブがうるさいとか言って、うるさいのなんて当たり前だろうが。自分が学生時代に派手な事できなかったからって」


 しずえちゃんのライブが文句を言われるのは、しずえちゃんのライブがいつも無許可で突発的なゲリラライブであることが理由なのだから、本当は先生がこんな風に口汚く罵倒される筋合いはない。

 それでも、おにぎりを失った恨みに燃える私はその言葉に深く共感し、何度も頷いた。

 そのおかげもあって職員室に着く頃には私にもロックの精神が宿っており、先生に一発ガツンと言ってやろうと意気込みを新たにしていた。


「じゃあ、私頑張って頼んでみる。危なくなったら助けてね」


 部屋に入って、まずはいつものしずえちゃんみたいに「失礼します!」と大声で威嚇してーーーなんてことを考えながら、拳を握りしめてノックしようとして。それを何故か、しずえちゃんは阻んだ。

 コンコン、としずえちゃんの左手が軽やかなリズムを刻む。

 カラカラ、と職員室の扉がゆるやかに横に滑る。


「失礼します」


 気持ち悪い程穏やかな調子の声。

 しずえちゃんって、こんな声も出せるんだ。