「でもさ。そんなに吉野が好きなら、なんでそこまでこっそりやろうとするわけ?メッセージもつけないんだったら告白になんねーじゃん」



 いつものパターンで、いろいろ深く考えないようになってきたしずえちゃんは、バレンタイン前日になってそんなことを聞いてきた。



「でも、すごく気持ちこめるよ。吉野君のは」


「だから、そんなの伝わんないでしょ。ほんと何がしたいのあんたは?」


 しずえちゃんはこの世で最も愛する牛乳をすすりながら不審な表情を浮かべる。その随分とロックな顔はけっこう迫力がある。


「私、付き合いたいとかじゃないんだ。そういう話になると拒否られたら怖いってのもあるし・・・」


「あんた、そういうしょうもないところはびびるもんね」


「それより、もう好きなだけで幸せっていうか。何か渡せるだけでいいんだよ!」


「何かあげたいだけなら、あえておにぎり作らなくてもいいじゃん」


「そこはね、ほら。できれば『あいつ美味しいもの作ったなあ』って感じでね。印象に残ってほしいからね」


「嫌でも印象に残るだろうよ」


「あっ、そろそろ帰らないと。今日は早く寝て朝に備えるから!」


 甘ったるいチョコレートを作る子達なら今日が山場だけど、私は早朝が勝負なのだ。


 ぺらぺらの鞄を背負って頑張るね!と手を振る私に、しずえちゃんは鼻で笑いながらも初めて頑張れと言ってくれた。