それからの練習は苛烈を極めた。







 最初は私のバレンタインにかける思いを微笑ましげに聞いていた親も、作るのがおにぎりと聞いた途端に顔色を変えた。


 春野家から世に出るおにぎりが半端なものであってはならない。


 私は宿題も予習もそっちのけで台所に引きこもる。


 いつものんびりとした性格のお父さんもおにぎりの味見になるとネチネチ言ってくるようになるし、お母さんも勉強はテキトーでもいいけどおにぎりはテキトーじゃだめなのよと厳しい目つきになる。


 かくして、私は本物の「適当」を目指す鍛錬に身を削るのだ。







 練習はもちろんオールナイトなので、授業中は眠るしかない。しずえちゃんは私が先生に怒られる度にバカにして、おにぎりのことまでバカにしてきた。


 これにはさすがに腹が立ったけど、おばあちゃんの教えを思い出して私は言い返さなかった。


 人の価値観はそれぞれだから、否定してはいけない。でも、おにぎりは等しくみんなに分け与えられるものなのだ。


 これを教えると一瞬黙ったしずえちゃんは、感動したのかと思ったけれどやっぱりまた私のことをバカと罵った。


 でも、もう誰に何を言われようと私はバレンタインにおにぎりを握るのだ。


 そして、さりげなく渡してみせる。


 憧れの吉野君に。