可哀想なものを見るような目で豪快に私の妄想を断ち切った、友だちのしずえちゃん。
彼女はロックに傾倒してる軽音楽部の花形で、見た目から性格までロックだけど、名前だけがロックじゃない。
時は2月7日。世のお店中が華やかなピンク色にラッピングされて、何やら甘い香りを漂わせている季節だ。
現在一世一代の恋をしている青春真っ盛りの私ももちろん、女子達に紛れて色めき立っても良いと思っていた。
「バレンタインに告白って・・・それあまりにベタすぎてクサいから。マジクサいから。今どき誰もやってねーよ」
「うそ!?ていうかしずえちゃん、クサいってひどくない?」
「しかも下駄箱にこっそりって・・・ないわ。その純情さはもはやキモい。てゆーか普通にチョコ臭くなるし!納豆みたいな匂いになるし!」
「納豆と下駄箱の匂いは全然違いますー!そして、純情はキモくない!」
食って掛かる私に、しずえちゃんは最近のバレンタインについてくどくどと語った。どうも近頃の女子のバレンタインというのは、お歳暮感覚で甘いものを関係各社に配るという目的が主であるらしい。そして、その甘いものとやらは別にチョコレートである必要はないのだと。
「ねえ、春野さんたち何かだめなものある?」
そこにやってきたのは家庭科部希代のエースと名高い、クラスのマドンナ的美少女だ。
「バレンタイン、クラスのみんなに何かお菓子作ってこようと思って」
「あ、私なんでも食べるよ」
「匂いにクセが無かったらそれでいいけど」
「うん、分かった!じゃあね」
彼女は続いて部活に繰り出す直前の男子を引き止めている。その清潔感のあるさらさらのロングヘアをぼんやりと見ながら、私は感心して「へえ」と情けない声をあげた。
「クラスのみんなだって。ほんとにたくさん配るんだね。最近は」
「ああやって優越感に浸りたいんだよ」
しずえちゃんは、マドンナの背中を見守りながら声を潜めることも無くそんなことを言う。相変わらずロックな声量だ。
「あの子にとったら、バレンタインなんて自分の交友関係の広さを確認するのと、点稼ぎするためのイベントにすぎないんだよ」
「なんかくれるならそれでいいけど・・・」
「みんなそう言いながらも、心の底では点稼ぎにイラッとしてたりするから!」
最近のバレンタインの暗い側面ばかりをお伝えしてくるしずえちゃんは、どうもこのイベントが琴線に触れないらしく、チョコレートはおろか煎餅の一枚すら誰かに用意する気配は無さそうだった。
「じゃあみんな、好きな男の子には渡さないのかな?」
「そういうわけじゃないよ。あんたの考えてたのよりもっと軽いノリでさ。友達にあげる感覚でさらっと男にも渡すってのが一種のステータスになってるよね」
「なにそれ、ロマンは?ドキドキはゼロ?」
特別なチョコレートを一人だけにっていう私の幻想は現代に不釣り合いだったらしい。
あれ?でも、そういえば私のバレンタインってもともと隠密行為だ。
どうせこっそりやるんだったら、ここは時勢にしたがって1クラス分配ってしまえば、ばれにくくなるんじゃ・・・?
「あ、いいね!私もなんか配ろう!」
「えっ!?」
しずえちゃんの表情は、前に私がカマキリを素手で掴んだ時に向けたものとほとんど同じだった。
彼女はロックに傾倒してる軽音楽部の花形で、見た目から性格までロックだけど、名前だけがロックじゃない。
時は2月7日。世のお店中が華やかなピンク色にラッピングされて、何やら甘い香りを漂わせている季節だ。
現在一世一代の恋をしている青春真っ盛りの私ももちろん、女子達に紛れて色めき立っても良いと思っていた。
「バレンタインに告白って・・・それあまりにベタすぎてクサいから。マジクサいから。今どき誰もやってねーよ」
「うそ!?ていうかしずえちゃん、クサいってひどくない?」
「しかも下駄箱にこっそりって・・・ないわ。その純情さはもはやキモい。てゆーか普通にチョコ臭くなるし!納豆みたいな匂いになるし!」
「納豆と下駄箱の匂いは全然違いますー!そして、純情はキモくない!」
食って掛かる私に、しずえちゃんは最近のバレンタインについてくどくどと語った。どうも近頃の女子のバレンタインというのは、お歳暮感覚で甘いものを関係各社に配るという目的が主であるらしい。そして、その甘いものとやらは別にチョコレートである必要はないのだと。
「ねえ、春野さんたち何かだめなものある?」
そこにやってきたのは家庭科部希代のエースと名高い、クラスのマドンナ的美少女だ。
「バレンタイン、クラスのみんなに何かお菓子作ってこようと思って」
「あ、私なんでも食べるよ」
「匂いにクセが無かったらそれでいいけど」
「うん、分かった!じゃあね」
彼女は続いて部活に繰り出す直前の男子を引き止めている。その清潔感のあるさらさらのロングヘアをぼんやりと見ながら、私は感心して「へえ」と情けない声をあげた。
「クラスのみんなだって。ほんとにたくさん配るんだね。最近は」
「ああやって優越感に浸りたいんだよ」
しずえちゃんは、マドンナの背中を見守りながら声を潜めることも無くそんなことを言う。相変わらずロックな声量だ。
「あの子にとったら、バレンタインなんて自分の交友関係の広さを確認するのと、点稼ぎするためのイベントにすぎないんだよ」
「なんかくれるならそれでいいけど・・・」
「みんなそう言いながらも、心の底では点稼ぎにイラッとしてたりするから!」
最近のバレンタインの暗い側面ばかりをお伝えしてくるしずえちゃんは、どうもこのイベントが琴線に触れないらしく、チョコレートはおろか煎餅の一枚すら誰かに用意する気配は無さそうだった。
「じゃあみんな、好きな男の子には渡さないのかな?」
「そういうわけじゃないよ。あんたの考えてたのよりもっと軽いノリでさ。友達にあげる感覚でさらっと男にも渡すってのが一種のステータスになってるよね」
「なにそれ、ロマンは?ドキドキはゼロ?」
特別なチョコレートを一人だけにっていう私の幻想は現代に不釣り合いだったらしい。
あれ?でも、そういえば私のバレンタインってもともと隠密行為だ。
どうせこっそりやるんだったら、ここは時勢にしたがって1クラス分配ってしまえば、ばれにくくなるんじゃ・・・?
「あ、いいね!私もなんか配ろう!」
「えっ!?」
しずえちゃんの表情は、前に私がカマキリを素手で掴んだ時に向けたものとほとんど同じだった。