「だが道仙は、その大事な教本も正確に理解していないところがあろうから、強力な術でも、どこかに穴があるやもしれぬぞ」

 前髪を押さえていた手を降ろして、惟道が淡々と言う。
 ぼんやりと佇んでいるだけに見える横顔は、そこだけ違う空間のようだ。

「どうした、若造。さすがに恐れをなしたか」

 自分の結界に絶対の自信を持っているのであろう。
 道仙が、扇を口元に当てて高笑いした。

 と言っても道仙殿だって守道の結界を破れなかったのだから、ここで守道が破れなくても引き分けじゃないの、と思いつつ、章親は少し前に立つ守道を窺った。

 守道は一つ深呼吸すると、おもむろに両手を組んだ。
 低く、呪を唱える。

 さわ、と守道の周りの空気が変わり、そのうち、ぱし、ぱし、と火花が散り始めた。
 道仙の顔が、若干引き攣る。

「破っ!」

 突き出した守道の両拳から、気の塊が火花を散らしながら放たれる。
 道仙の腰が引けた。
 だが、道仙のすぐ前で、気の塊は激しく爆発するように散ってしまった。

「……」

 あまりの激しい攻撃に、誰もが息を呑む。
 道仙も片腕で顔を覆っていたが、守道の攻撃を結界が阻んだと知るや、ぱっと腕を降ろして胸を張った。

「はははぁっ! どうだ! この結界は破れまい!」

 あからさまにビビっていたくせに、と小声で呟き、守道はどうしたもんかと考えた。

「この結界は、古の文献にあった最強のものよ。どのようなものにもびくともせぬわ!」