「……くくく」

 堪えきれなくなったのか、惟道が忍び笑いを漏らした。

「こ、惟道殿……」

 守道も、驚いて惟道を見ている。
 この能面男が笑うとは。

 何だか笑うと幼くなるな、無表情だといくつかわかんないけど、やっぱり僕より年下かもしれないね、などと何となくほのぼのしてしまった章親だったが、そんな結界内の空気は道仙の怒鳴り声で一掃される。

「何を笑っておる!!」

 簀子の上の道仙が、顔を真っ赤に染めて惟道を睨み付ける。

「お前を育ててやったのは誰だと思っておる! この恩知らずが!」

「別にあなたに育てて貰ったとは思わぬが」

 ふふ、と笑いつつ、惟道が呟くように言った。
 そして、きょろ、と周りを見回す。

「結界はびくともしていない。勝負あったか?」

 惟道には結界が見えるようだ。

「それとも道仙の結界を破った時点で、あなたの勝ちなのか?」

 惟道に言われ、守道は己の結界を解いた。
 そして道仙を見る。

「ちょ、ちょっと待て」

 身構えた守道に、道仙が慌てたように片手を挙げて、身を翻す。

「逃げるのですか!」

「馬鹿もん! お主らとわしとでは、術の質が違うんじゃ。い、今ここで結界は張れぬ故、しばし待っておれ!」

 言い捨て、簀子を奥へ去って行く。