「まさか、結界が見えないとか?」

 隠す結界ではない。
 ちょっとした力のある者なら見える程度の結界だ。
 だが道仙は、必死で守道を見ている。

「ば、馬鹿者! わしは蘆屋 道満の息子ぞ! け、結界の弱点を探しておっただけじゃ!」

 慌てて身を起こし、道仙が怒鳴る。

「そうですよねぇ。まさか、あの道満殿のご子息ともあろうお方が、こんな簡単な結界も見えないなんて、あるはずないですよね~~!」

 守道が、思いっきり笑顔で道仙に言う。
 その横で、章親ははらはらしながら両者を見比べていた。

---も、守道、こんな挑発しておいて、実は結構な術師だったらどうするつもりさ---

 小心者の章親はそう思ってしまうのだが、章親だって道仙の力のほどは、何となく察しが付いている。
 惟道だって言っていた。

 道仙は、やおら両手を掲げて印らしきものを結ぶと、呪文を唱え出した。

「はぁっ!」

 えらく短い呪文の後に、気合と共に両手を突き出す。
 薄い霧のような気の塊が、ひゅるひゅると守道に向かい、結界に触れた瞬間、呆気なく霧散する。

 道仙の剣幕とは比べ物にならないほどの、脆弱な攻撃だ。
 ここまでだと、返って哀れになる。

 せめてもうちょっと、ちゃんとした勝負になるかと思っていた守道は、少し困った顔をした。
 ちら、と章親を見ても、章親も微妙な顔をしている。

 と、ふ、と惟道が息をついた。
 それに気付いて惟道を見た章親の目が見開かれる。

 惟道が、手を口に当てている。
 その口角が上がっているのだ。