晴明の非は、初めに認めたはずなのだが。
 それにしても道仙の、この怒りは尋常ではない。

「何故あなたは、そんなに安倍家を恨むのです。道満殿も、追放になったとはいえ播磨の地で都よりも活躍していたそうではないですか。そもそも道満殿自身、そんなにずっと恨みを持ってはいなかったと聞きました。兄君も然り。あなたは晴明殿と道満殿の勝負を見たわけでもないでしょう。当の本人が恨んでないのに、何故ほぼ関係のないあなたが恨みを晴らそうとするのです」

 冷静に、守道が言う。
 若い者に諭されるのが癪に障ったのか、道仙は、持っていた扇を、ばし! と足元に叩き付けた。

「親父殿は甘いのだ! 何に対してもそうだ! 晴明に負けて追放になったというに、あのような田舎の下級貴族に重宝されただけであっさり馴染みおって。挙句、どこぞで拾った惟道を、わしよりも大事にしおって!」

 ははぁ、と守道は納得した。
 道仙の全ての原動力は、恨みではなく嫉妬か。

「蘆屋家は元々、安倍 晴明など及びもつかないほどの術師の家柄なのだ! それを愚かにも都から追放した馬鹿者など、わしが一掃してやるわ! 人食い鬼を内裏に放ち、わしの力を思い知らせてやる!」

「……めちゃくちゃだ……」

「わしにはそれが出来るだけの力がある! 親父殿を追放した安倍の陰陽師よ、止められるものなら止めてみるがいい!」

 ははははは、と魔王のように笑う道仙を、『追放したのはおじいさまであって僕ではない』と内心思いつつ、章親は傍らの惟道を見た。
 目の前で激昂している道仙など見えていないように、惟道は相変わらずの能面である。