「鬼なら見ました」

 惟道が動く前に、守道は素早く彼の腕を掴んで動きを封じた。

「あなたの企みも、話の流れで大方掴みました。今更昔の恨みを晴らして何になるのです。しかも負けたのはお父上だ。あなたではない」

「……ガキが」

 ぼそ、と呟き、道仙は奥歯を噛み締めた。
 そして、ぎ、と守道を睨む。

「お前などに、何がわかる! 大陰陽師・安倍 晴明よりも優れていた親父殿が、卑怯な手で配流になったのだ!」

「……う~ん、確かにおじいさまのやり方は、褒められたものではないと思うけど」

 守道の後ろで、章親が微妙な相槌を入れる。

「でも術師同士の勝負なんだったら、中のものを変えることだって想定しておかないといけないんじゃないかな。そう考えると、朝廷の運営にも落ち度はあるし、道満殿も、ちょっと迂闊だったんじゃないかな」

 そうなのだ。
 もちろん一番の問題は、運営の仕方であろう。

 片方が答えた時点で箱の中身を確かめるか、二人にそれぞれ一つずつ箱を用意するべきだった。
 術師であればモノを変えることだって出来るということを考慮すべきだったのだ。

 確かに並大抵のことではないが、道満も、知識としては知っておくべきだった。
 晴明はそういうことを教えるために、大人げないとも取れる術を用いたのかもしれない。

「黙れ! 晴明は卑怯者だ! その孫のお前も罪を認めず、あまつさえこちらに責任を押し付けようとする! やはり所詮は晴明の孫よな!」