屋敷の門を潜ってからも、前を行く惟道は道仙の元へ行く素振りも見せず、寝殿を迂回して裏手に回る。

「帰って来たことを知らせなくてもいいのか?」

 守道が問うと、惟道は少しだけ後ろを見た。

「そのうち気付くであろう」

 自ら道仙の元へ挨拶に伺うことはしないらしい。
 確かに足音を忍ばせているわけでもないので、よほど屋敷の奥にいない限りはわかるだろうが。
 と思っていると、案の定すぐ横の妻戸が開いた。

「何をやっておったのじゃ……」

 ずいっと簀子に出て来たのは道仙である。
 帰りの遅い惟道に苛々していたようだ。
 その目が、驚きに見開かれる。

「お、お主らは……」

「これは道仙殿。先日はどうも」

 肚を括ったのか、臆することなく守道が言う。

「彼が安倍の屋敷に穢れを付けに来た、と言うのですが、どういうことか」

 ずばりと聞かれ、道仙は顔を歪めて惟道を見た。
 言うことは聞くが、聞かれたことにも素直に答える。
 馬鹿正直に来訪の目的を伝えたのかと、道仙は内心激しく舌打ちした。

「い、いや何。前にお見せできなかったものを持たせたのだがね」

 引き攣る顔に笑顔を貼りつけ、道仙はそう言うと、再度惟道を見た。
 顎で守道を指し、やれ、と合図する。