『じゃ、そういうことだから。今から迎えに行くから用意しといてよ』
「えっ、ちょっと梅――」
ぷつっと電話が切れてしまった。
あのオドオドしてた梅吉とは思えない強引さ。
何?
なんなの、この展開!
寝癖のついた髪をアップにして。
さっとお化粧して、服を着替えて。
……って、
なんであたしが梅吉のために、朝っぱらから外出の準備なんかしなきゃいけないのよ!
ムカついて電話をかけ直しても出る気配はないし。
「ふざけんなっつーの」
舌打ちしたと同時に、携帯が鳴った。
『着いたよ。今、杏ちゃんちの前にいる』
「はいはい。わかったわよ」
よっこらせ、なんてオバサンみたいな声を出して立ち上がるあたし。
部屋を出て、玄関でサンダルを履く。
あーあ。
なんか変なことになっちゃったな。
高校に入って、梅吉のことなんて少しずつ忘れかけてたのに、なんで今さら――…
「おはよ。杏ちゃん」
「………」
ドアを開けたあたしは固まった。
この男、誰?
いや。顔はたしかに梅吉だけど。