「こうしない? 1年に1日だけ、僕が主導権を握る日を作ってよ」
まるで世紀の大発明でもしたかのように、キラキラ輝く梅吉の顔。
あきれた。
1年に1日だけなんて、なんつー遠慮がちなアイデアだ。
「まぁ、別にいいよ」
「まじで!? やったー!」
両手を上げる梅吉に、あたしは冷やかに言った。
「ただし364日後ね」
「……え?」
「今日が8月17日だから、364日後の――
8月16日は、あんたに主導権をあげてもいいってこと」
満面の笑みだった梅吉は、みるみる不満げに変わる。
「んだよ、それ〜! 遠すぎるって!」
「でも1年に1日には変わりないでしょ?」
「んなこと言ってもさぁ。
その頃にはたぶん僕たち、別々の高校にいるし、会う機会少ないじゃん」
「………」
「ずるいなぁ、杏ちゃん」
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あんなやり取り、すっかり忘れてた。
あのとき梅吉が言ったように、あたしたちは別々の高校に進学し、疎遠になっていたから。
『思い出した?』
声変わりした梅吉の声が、電話越しに響く。
あたしは壁掛けのカレンダーを確認した。
今日の日づけ……8月16日だ。