「ほんと冷たいよな、杏ちゃんは。
俺は杏ちゃんの頼みを断ったことなんか一度もないのにさ」

「……あったよ」

「え?」

「一回だけ。あんた、断ったじゃん」


あたしは深くうつむいた。

胸がもやもやして、ますます可愛くないあたしになる。


やっぱり……今日は来なければよかった。

なんか、すごい惨めだよ。


「杏ちゃん」


いきなりほっぺを両側からつねられて、グイッて顔を上げられた。

目の前に梅吉の、どアップ。


「な、何っ、離して…っ」

「白とピンクと青。どれが好き?」

「え? え?」

「どれだよ?」

「ピ…ピンク……」


あ、しまった。

パニックのせいで、思わず本当のこと答えちゃった。

あたしみたいなタイプが、ピンクなんて言ったらきっと笑われる――


「了解。おいで」


梅吉はあたしの頬から手を離し、代わりに腕をつかんで歩きだした。

向かった先は、浴衣を売ってるショップ。


「すみませーん。このピンクの浴衣ください」

「ちょっ、梅吉!」


面食らうあたしにおかまいなしで、梅吉は一着の浴衣を指さして、店員さんを呼ぶ。