あれから2時間ほど経った

そろそろ一度様子を見にいこうかな…


そう思っているとPHSが鳴った


「もしもし長谷川です」

『長谷川先生!
柚ちゃんナースコールきまして
呼吸苦しいみたいなんです
病室来れますか?』


「すぐいく」


急いで病室に向かいつつ
苦しいってことは発作が始まるか…?
パニックにならないといいけど



ガラッ
病室の扉を開けて目に飛び込んできたのは
苦しさから横向きになってる柚と
病室に響くほどの息遣いの荒さだった

「先生!」

「どんな感じ?」

「意識はあります
ただ会話は難しいです」


「柚遅くなってごめんね
少し音聞かせてね
焦らないで大丈夫だからね」


服の中に手を入れると少し冷たい
音も不整脈を起こしていて
これは苦しいはずだ


「不整脈起こしてるから薬いれよう
それから体温下がってるみたいだから
体温めてあげて。
酸素マスクして落ち着いたら
心電図つけておいて」


「はい」


「ゆずー酸素マスクするからね
ちょっと頭触るよ」


「柚ちゃん大丈夫だからね
すこーしずつゆっくり呼吸しよう」


看護師が柚の背中を摩りつつ
落ち着かせてくれている間に
俺は薬を投与した








柚を落ち着かせてる間
近くの病室でも急変があって
看護師がバタバタし始めて
そっちの看護師が足りないみたいで
病室には俺と柚の2人になった


手を握りながら
少しずつ落ち着いてきた柚


焦っているのか
時折呼吸のタイミングがずれる

「柚焦らないでいいよ
柚のペースでね」




暫くの間呼吸を落ち着かせて
ようやく柚も会話が出来るようになった


「…だいぶ、楽になった」


「よかった
よく頑張ったね。ちょっと心配だからさ
暫く酸素マスクつけておいて?」


「はぁい」

「もう少し落ち着いたらモニターつけるね
柚疲れちゃったでしょ
眠っていいよ?俺ついてるから」


「ありがとう」


その数分後に柚は眠って
俺は10分ほど様子を見てから
モニターをつけて病室を後にした







夕方の回診で
かろうじて目が覚めてた柚だけど
心臓に元気がないおかげで
体力も気力も落ちてきていて
元気のない様子だった


今日はほとんどなにも口にしてないから
そうなるのも当たり前で
夕飯も食欲が湧かずに食べれなかった



「柚ゼリーなら食べれない?」


「うーん…」


「気持ち悪かったりする?」

「なんか表現し辛いんだけど…
胸がムカムカするから
じっとしててもなんか辛くて
余計動きたくなくて…」


「そうか…とりあえず体力も
落ちてきちゃうから栄養の点滴は
追加させて
吐きそうとかの気持ち悪さじゃなくて
胸のほうが気持ち悪い感じかな?」

「そう…」

「そっか分かった。
じゃあゆっくり休んでね
少しでも何かあればモニターみて
看護師さん来てくれると思うけど
違和感程度でも何かあれば
遠慮なくコールしてね」


少し頷いた柚


そんな柚をみて病室を後にした



お昼前に少し元気があった柚とは別人…
胸のムカムカ気になるな…



確かに連日の睡眠不足と緊張感からくる
精神的ストレスで
心臓にはかなり負担がかかってたから
心臓の状態もあまり良くない

それに加えて自覚症状で
むかつきが出て来たのは
俺もちょっと焦るな



夜から心臓の方の治療薬を
濃度をあげてみて早く良くなるといいけどな








目が覚めると外はまだ真っ暗で
時計も夜中を指していた


気分は最悪で
横になっているのに体が辛くて
胸のムカつきも変わらず…


寒気も感じるようになって
もしかしたら熱出てきちゃったかな…


龍に少しでも何かあったら
すぐにナースコールしてって言われたけど
こんな時間だし
特になにがあるわけじゃないし
どうしようかな……



考えれば考えるほど
具合もどんどん悪くなってきて
ナースコールに手を伸ばした


『柚ちゃん目が覚めた?
すぐに行くね』


なにも言わなくても
そう言ってくれる看護師さんに
心から感謝した






少しして開いたドアから
カートを押して看護師さんが
入ってきた


「柚ちゃん
変な時間に目覚めちゃったね
具合はどうかな?」


「さっきより…悪くて」


「辛かったね体温計らせてね」

私が体温計を挟んでいる間に
看護師さんは電話をはじめた


「あ、すみません
浅川柚ちゃんなんですが
目が覚めてナースコールくれました


熱が出てるみたいで…

はい。お願いします」


「柚ちゃん
すぐに長谷川先生くるからね」


そう言われて安心したのも束の間
少しずつ心臓が
違うタイミングで脈を打ちはじめた



自分で深い呼吸を意識しても
上手くいかない…


「柚ちゃん苦しいね
大丈夫だよゆっくり呼吸しようか」







次に開いた扉で
龍が到着してくれた


「どんな感じ?」

「熱は8度3分で上がってます
30秒ほど前から不整脈のようで
柚ちゃん呼吸が安定してません」


「ありがとう
発作止め注射でいれちゃおう
あと解熱剤は点滴で入れて」

「はい」

「柚?大丈夫だよ
その調子で焦らないでいこう」


横になったままで辛いから
龍が力の入らない私の体を
支えてくれて座った状態にしてくれた


それからもなんとか呼吸を
落ち着かせるように頑張ってはいるけど
時間とともに
体に力が入らないのも
全く入らなくなってきてしまって
深い呼吸を意識することも
出来ないくらい体が言うことを聞かない…



「柚?聞こえる?
少し俺の手握ってくれる?」


そう言われても微かにしか
反応ができなくなっていた







俺の手をほとんど握れない柚


「先生柚ちゃん意識が…」


「ちょっと弱いね…
悪いんだけど浅香先生呼んでくれる?
俺が呼んでるって言って」


「はいっ直ぐに電話します」



徐々にかろうじて入っていた力さえも
抜けて行く柚

薬を入れたおかげで
不整脈のほうは落ち着いて来てはいるけど
全身状態があまりに悪すぎる…


首元でさえ
支えていないと上を仰いでしまうほど…


こんな中でも意識があることが
可哀想でならない



電話から直ぐに
荘が病室に駆けつけてくれた


「龍大丈夫か?」


「発作は薬で止まって来たんだけど
その分意識はあるのに
体が力入らなくなっちゃって
熱も急激に上がって来てるんだ」


「わかった
もう一度体温測ろう」




俺が支えている体に
荘が体温計を挟んでくれて
出た体温は39.4

このわずかな時間で
1度以上上がってしまっている


「10分ほどで急激に上がりすぎて
柚の体が危ない
直ぐに強い薬を入れよう」


「ああ。頼んだ
柚?辛い思いさせてごめんね
体横にするよ
今から少し強い薬入れるから
気持ち悪い感覚あるよ」


柚に一応説明をして
荘が準備をしている間に
柚の開いていた目が閉じて
布団が微かに揺れたと思ったら
全身が痙攣を起こしはじめた



「ゆずっ」

「龍直ぐに薬入れないと!」

「ああ!そのまま入れてくれ」




直ぐに柚の体を横向きにして
酸素マスクを外した瞬間
柚が嘔吐を始めてしまった



喉に詰まらないように
口の中から嘔吐物を出して
直ぐに始まってしまったチアノーゼのために
鼻からの酸素チューブを装着させた







5分ほどでようやく落ち着いたけど
戻るはずの意識が戻らない…


「龍とりあえず
ICUに移動させて様子をみよう
直ぐに意識は戻るはずだけど
全身状態が悪すぎる」


「ああ、そうだな…」

「ここの処理は任せてください」


「ありがとう
ストレッチャーで移動だけしよう」



そう言って荘と柚を移動させてる間も
柚の意識は戻らないまま…



ICUで全ての機械を付け直しても
柚の意識が戻る気配はない


「そろそろ意識戻ってもいいのに…」


「発作の時間が長すぎたか…?
そんな訳もないよな…」

「大分体力も無くなってた中での
痙攣発作だったから
眠ったまま朝までってこともあるかな」



「そうだな…大体1度は戻るんだけどな
変に刺激するのも
心臓に良くないし
朝まで待ってみるしかないな」


「ああ。サンキューな
俺1人だったら
冷静で居られなかったかもしれない」


「龍は良くできてたよ
少しここで休むか?
今日は他の患者さんは落ち着いてるし
もし何かあればPHSで呼ぶよ」


「いや、ここに居ても
さらに心配が増すから医局に戻るよ
看護師さんに何かあればすぐに
連絡もらえるように言っておく」




そう言って2人で医局に戻った