初めて彼が声を荒げて顔を歪ませた。彼の袖を掴んでいた手はスルリと流れていくように力つきた。


「早く…!早く行け!荷物まとめて出ていけ!」


「っ、」

私はゆっくりと荷物をまとめた。服に所々涙が落ちて染みになる。思い出が溢れてくる。


彼と買った歯ブラシや服。彼と出掛けたときのお土産。全部全部、溢れて消えそうになる。


「夜は危ないからタクシーとかで行って」


そう言って私に1万円を無理矢理握らせた。もう、返す気力もなくて私はフラフラと玄関に向かう。


「今まで、ありがとう。助けてくれて、甘やかしてくれて。」


そうして靴をはいてドアを開ける。後ろを振り向くと彼は下を向いて椅子に座っていた。