それから、長い説教の後

無事解放された


「ねえ 山崎君」

「なんや?」

「ふふっ なんでもありません」

「気持ち悪!!」


井戸で顔を洗い、山崎君を見る


〝僕は、君が好きだよ〟


そう言いたかった


「言っておくけど、僕は
山崎君の事が、嫌いだからね!」


だけど、言えば

困らせてしまう

だから、反対の 今までと同じ言葉にした


「ははっ 知ってるで」


ほら、笑った



人との間に壁をこしらえる山崎君は

少し突き放してあげた方がいい

踏み込まれないと安心して

山崎君から、来てくれる


この関係が、今の僕らの一番良い形だ







山崎君は、僕ら幹部以外の前に姿を出さない


しかし…


それも、今日まで







どうして表に出ることになったかというと


怪我人と病人が増えたから



医術の心得がある山崎君が看病することに

とりあえず、怪しい奴と思われないように


「新しく入った医務方の篠塚岸三だ」


これまた、冷たいこと


愛想がないのは、前からだけど


喋り方から、目など


近寄り難いはず




幹部も用事がない限りは、山崎君と接点を
持たないように言われた



監察方の仕事は、一先ず島田さんと尾形さんがやっている




とにかく忙しいようだ



店も休んでいるけど、昼夜問わずだから


「山崎の負担をへらさねぇとな…」


会議で、土方さんが提案した




「どうかな?女中を雇って、昼間だけでも
見て貰うのは?」



山南さんが当たり障りない意見を出す


「それがよ あいつ、女中雇う金があったら、薬買ってくれって…」



山崎君らしい…



「僕、手伝いましょうか?
ほら、僕が看病するって言えば
ひえーっとかいってすぐ治すと思うんです
どうです?」

「なら、俺も手伝おう」

斎藤君が乗ってくれた

「いいねぇ!!僕ら二人、隊士から嫌がられてるもんね!!」

「よし!総司!!斎藤君!!
しばらく山崎君の手伝いを頼む!!!」


「篠塚だからな!間違うなよ!」



看病の手伝いって、思った以上に大変…

これをずっと一人でこなしてたなんて…




「辛い仕事だな…」





珍しくそんな弱音を吐いたのは

斎藤君だった




「だから土方さんが手伝いをするように
僕らに言ったんでしょ?」


「言われる前に、気づいてやることも
出来たはずだと思ってな…」




その通りだ…




山崎君の目の下には、クマ

あの細い体で…


何度も井戸に水を汲みに行くなんて


僕らは、二人でも大変…なんて

軽く思ったことに、反省した


そして、斎藤君の言う通り



僕は、山崎君が女子であると知っているのだから

気づいてあげるべきだった










「ありがとうございました
おかげで、全員復帰ですね」


素っ気ない喋り方…


「お礼は、団子でいいですよ!」

「斎藤は?」

「いや… 俺は…」

「好物は?」

「…蕎麦」

「蕎麦? 明日の夕餉でいいですか?」

「うん!」

「ああ ありがとう」


山崎君は、僕らとあまり関わらないように
気をつけている

でも、お礼をしたいとか


律儀だよね!!


そういうところ


好きだなぁ~












【土方歳三】


「では、明日の夕餉には戻りますので」


隊士らの看病が終わり

二日間の非番が欲しいと言ってきた

山崎には、自由をやっているが、そういや

休みは一度もやっていなかった

初めての非番だ



「ちゃんと休めよ?店も出るなよ」

「心配するおかんみたいや…」

「は?」

「いえ 失礼致します」




山崎にとって、俺は主君なのだ

だから… 笑いをこらえて

後ろを向き、襖に手をかけた



「あ おかん言うのは、母親の事やで」

「るせぇーよ!!サッサと行きやがれ!」


わからないから、は?って言ったんじゃねぇーつーの!!


年上だからか、時々

俺を馬鹿にして、からかっていく



山崎の閉めた襖をしばらく眺め思う




行き先も告げず
何をするのか


気になるが、山崎から休みをとりたいと言われた時


なんとなく



あぁ 元旦那に会うのか



と、勘が働いた




初めての非番だと思うと、行くなと言えず

黙って送り出すことにした




〝もしも… 戻って来なかったら…〟





情けないことに、主従関係にありながら
そんな不安でいっぱいだ


それは、やっぱ



惚れてるからだな…


















【沖田総司】



僕が初めて人を斬って

今朝で、丁度一年



巡察の終わった後、現地解散し




僕は、四条大橋へ





まだ、早朝なので人はいないはず

そう思っていたのに


先客がいた


橋の上で、動かないその先客の女性が
放っておけなくて


「どうしました?」

「へ? …沖田?」

!!!山崎君!!!

「やっ ちゃうねん!
ちょっと、あのやな…心配いらんからな」

僕が、驚きすぎて無言だから

慌てて言い訳を考えたが、見つからなかったらしい…


「涼花… そちらさんは?」


僕は、急に現れた気配にビックリした
その人が山崎君を〝涼花〟と
女性の名前で呼んだことにも


「君ちゃん…やっ…その…」

「そうか!涼花の恋仲はんかいな?」

「「え」」

「まぁ こないなとこで、立ち話もなんや
家に行こか!」


全く、話を聞かない君ちゃんは

山崎君の元旦那さん

そして、四条大橋が二人の娘 菊の亡くなった場所

僕が、殿内を斬った数年前

君ちゃんと菊ちゃんが不逞浪士に襲われ

菊ちゃんが命を落とした

そして、悲しむ山崎君を置いて

家を出た君ちゃん


「君ちゃん…あのな?」

「ええねん!ええねん!
涼花にええ人がおって、安心したわ!
一人寂しく後家さんしとんかと
心配してたんやで?」

「な!貴方が置いてったんでしょ!!」

「お名前は?」

「っ…沖田総司です」

「えらい若いのつかまえたな!
男前やし!ええやん!!沖ちゃん!!」

にっこにこの君ちゃんに圧倒された


「涼花は、なんて呼んでんや?」

「え?あ…総ちゃん/////」


チラッと僕を見てから、呼んだことのない
〝総ちゃん〟と言って、照れる

そんな姿見せるもんだから、僕も照れる


「沖ちゃんは?」

「え…」

どうしょう…


「烝//////」


「……そうか
ホンマの名前で呼んでるんやな
よかったなぁ~」


涼花…って、偽名か…

よかった!



「そうや、実家寄るけど?」

「ん…まだ行方不明やって言っといて」

「ええんか?」

「うん ええ」

「そうやな!沖ちゃんおるもんな!
上手いこと言っとくさかい!
心配せんと、幸せになったらええ!!」

「/////おおきに」

「////ありがとうございます」


見送りはいいからと、君ちゃんは
あっという間に
先に出て行った


「……強烈だね クスッ」

「堪忍」

「僕、嬉しかったよ!
ねえ?二人の時は、烝って呼んでいい?」

「/////ええよ」

「やった!烝も総ちゃんって、呼んでね!
恋仲なんだから!」

「/////」




否定しないって事は……


「烝」


そっと烝の手を引いて、抱きしめた


「そっ…総ちゃん」


よし!


「僕にどれくらいの力があるのか
わからないけど、大切にするね!」



僕らは、どちらからかわからないくらい

自然と口づけをした



「あれ?総ちゃん巡察やったんちゃう?」


「うわぁーーーー!!!
報告に帰らなきゃ!!!」


「ふふっ 一緒に怒られたるわ」




烝が僕に微笑んだ


僕と烝 恋仲なんだ



そう思ったら、嬉しくてにやけた



もう一度、口づけをしてから



屯所へ



烝は、着替えてから屯所へ




屯所では、今まで通りにしないと!!!







【土方歳三】




「「すみません」」


朝の巡察の後、寄り道をして帰るとは聞いたが……

総司が帰って来たのは、山崎が帰って来ると言った夕餉前




「山崎君とバッタリ会いまして…」

「あの…ちょっと困ってまして…」



「で?」



「助けて貰ってしまいまして…
巡察の帰りって、忘れてまして
手伝いをして貰いました
すみません」

「いや、町娘さんが困っていると思ってね
山崎君とは知らずですよ?
上手く化けていたから…すみません」



お互いに具体的に何があったか言わない






「総司に規律を破らせる為におめぇに
休みをやった訳じゃねぇ
おめぇの休みの使い方をとやかく言うつもりはねぇが…
がっかりさせんな」

「はい すみません」


「総司 次、規律を破るなら
俺が納得するちゃんとした言い訳をしろ」

「はい すみませんでした」


「もういい… さがれ」




許してしまった




山崎は、いつもと変わらないが

総司は、わかりやすい



多分… 総司は、山崎が女だと気づいた




そして、山崎が女だから

ほっとけなくて…


いや…



もしかしたら…




総司も…






山崎も… 総司を…









「烝をくれ!」


見廻組が発足して間もなく
幹部会議に佐々木さんが、乗り込んできた


反論をしてやろうと思ったが

シュタッ

「アホか!!」

バシッ


あっさりと山崎が追い返した


「ご報告致します
間者疑いが、数名おります」


「篠塚…」

「はい?」

「永倉の隊に入れ」

「俺んとこ?
山崎…剣術とかできるのか?」

「ええ 少しは…」 

「いや、出来ないふりをしろ
出来るだけ仲良くなって、油断させろ
報告は、永倉にしてくれ
永倉…篠塚だからな」



医務方の篠塚が、永倉の隊に入り数日




「おら!篠塚!!!
真面目にやれ!!!」

「はい!!!」


山崎の剣術の腕前を知らないが

俺の言いつけを守ってんのか

本当に下手くそなのか…


いつも、コイツを一人で敵の所にやってる事は、危険なのでは…

と、思うほど酷い



だが、幹部らにあれだけ溶け込まなかった
あの…山崎が


「寺島~ 井戸行こうぜ!」

「おう!篠塚~お前、少し上手くなって来たぞ!」

「本当か!?」

「まだ巡察に連れて行って貰えないだろうけどな!」

「ええー寺島~後で、稽古しよう!」

「いいぞ!!」

「中野も来いよな!」

「いいのか?」

「おお!大勢のが楽しいだろ?」





すっかり永倉の隊士らと仲良くやってる



〝命令であれば、愛想くらいふりまきますけど?〟



そう言っていたことを思い出した

つまり、これは演技…



「お前、医務方の時は、怖かったけど
話してみたら、良い奴だよな!!」

「人様のお命預かってると思ってさ!
ピリピリしてたんだ
ごめんな?」



常に、ニコニコしているんだから

すげぇ変わり様だな