父親に母親のことを聞いても答えてくれないのは知っている。

それに不満を抱き始め、最近は父親との口数も減っていった。

結衣の部屋にはいまだ母親が読んでくれていただろう絵本が何冊かある。

ふとそれを手に取った。

『魔法使いか……。』

お姫様や王子様に魔法使い。
どれも非現実的で笑ってしまう。

けれどこんな結衣でも一時期その本を見て夢見たときがあった。

自分にも王子様が迎えに来てくれる。
自分もいつかお城の舞踏会へいける。
自分も信じていれば魔法をつかえる。

けれどそんな事はけして訪れない。

どれも大人が子供に夢をあたえようと勝手につくった作り話。

そんなの余計なお世話だ。

しかしかつて自分の母親はこんな事を言ったのをおぼえている。

《 これはどれも子供に夢を与える素敵な絵本だと思うわ。でもそんなのなくても、きっとあなたは自分の夢を見れるはず。信じていれば……きっと……。》