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ミーン、ミンミンミンミーン………………

蝉の声が煩く聞こえ、太陽が容赦なく照りつけ肌を焦がす。

一九四〇年 八月。

「紫乃ーーー!!おーーい。」

隣の家の4つ上の優一にーちゃんが私の名前を叫びながら、チャリンコをこいでくる。

「優一兄ちゃん、どーしたん?」

まだ、11歳…国民学校五年生の私 葉山  紫乃と違い
優一兄ちゃんこと 天音 優一は、高等学校三年生。
(当時は今の中学校が高等学校だった。)

頭も、人当たりもよく近所では、よー出来た子じゃゆーて、有名な兄ちゃん。

「はい、紫乃。アイスキャンディー買ってきましたよ。君も、食べるでしょ?」

ニッコリと笑う優一兄ちゃんの、笑顔が
眩しくて私もつられて笑ってしまう。

「うん!!」

素直に頷くと、嬉しそーにアイスキャンディーを渡してくれた。

よく照りつける太陽とは裏腹に、冷たく
甘く美味しい。

「真一のやつにも、もって帰ります。紫乃も帰りましょう」

アイスキャンディーを頬張る私に 優しい笑顔で語りかけてくる、優一兄ちゃん。

「はい、」

そう言って手を差し出してきた優一兄ちゃんに 私の胸は高鳴った。

周りから見れば、まだ11歳という子供だが
それでも、女の子だ。

「ん?どうしました、紫乃。顔が少し赤いみたいですよ?」

「暑いからじゃけ」

優一兄ちゃんの、手を握りながらうつむき加減に答えた。

「真一も、喜びますね」

「あいつ、優一兄ちゃんのゆう事だけは
真面目に聞くけ、喜ぶんじゃないの?」

「フフ、紫乃はやはり真一の事が嫌いみたいですね」

「ダーーーい嫌い! あいつも優一兄ちゃん見たいに優しくなればいいのに。同じ兄弟なのになんで、こんなに違うんじゃろ」

「真一には、真一のいいところがあると思うんですけどね」

真一____ 

その名前の持ち主は 今私の手を握っている優しい兄ちゃんと違い、乱暴で子供で……
優一兄ちゃんの弟だ。

「あ、真一だ。おーーい 真一!」

私の隣で優一兄ちゃんが声を張り上げる

「兄ちゃん!!」

泥だらけの顔でこちらに走ってきた。

「げぇ、紫乃も入んのかよ」

と。思ったら失礼なことをいってきた。