「何してるの」


 冷ややかな口調だ。明日美はますます下を向き、声も小さくなっていく。


「や、八重ちゃん、ごめん」

「先生に呼ばれたなんて嘘じゃん。どうしてあんな態度とるの? 三笠くん、落ち込んでたよ。なんかあった? 昨日は普通に楽しく話してたよね」

「それは……」


 昨日、香苗と俊介が抱き合っていたことは、誰にも言えない。しかし、そこを省いてうまく説明できるはずもなく、明日美は口ごもった。


「な、何でもないよ」

「何でもなくない。明日美さあ、三笠くんの事好きなんでしょ? 見てれば分かるよ。せっかく三笠くんだって自分から来てくれてるんだから、逃げるのやめなよ。嫌われちゃうよ?」

「そ、そんなんじゃ無いもん」

 
 明日美は大きく首を振った。八重に、恋心を気づかれているとは思わなかったのだ。

 八重は落ち着かなさげに上履きのつま先をこすりあわせていた。そして、その動きを止めたかと思うと、聞こえないくらい小さな声でつぶやく。


「……そんな事言ってると、私が動くよ?」

「え?」


 明日美は顔を上げた。八重の瞳は伏せられている。唇をかみしめて、苦しそうな表情をしている。


「……八重ちゃん?」

「明日美が好きじゃないって言い張るなら、私が頑張るけどいいの?」