昼休み、八重はいつものように明日美の前の席を陣取って、お弁当を広げる。うつむいたままの明日美を見て、ぽつりとつぶやいた。


「明日美、今日変だよね」

「……うん」

「ずっと俯いてるし。全然しゃべんない。つまんないよー。漫画の話でもしよーよ」

「……うん」


 ご飯粒を一粒ずつつまんで食べる明日美を見て、八重は溜息をついて、仕方なしに黙って自分のお弁当をつつく。お通夜のような雰囲気のまま二十分が過ぎたころ、いつもの大きな声が静寂を破った。


「おーい、我妻」


 俊介だ。明日美はビクリと体を震わせる。脳裏に昨日の光景が浮かんで、頭に一気に血が上ってくる。


「昨日の話、松崎から聞いた?」

「わ、私っ。先生に呼ばれたんだ!」


 明日美は俊介の会話を遮るようにそう言って立ち上がる。八重のあっけにとられたような顔が胸を刺す。嘘だということは、その態度から俊介に伝わるだろう。明日美はますます混乱して、彼の顔見ないよううつむいたまま脇を通った。


「ご、ごめん。行ってくるから」


(もうヤダ。逃げたい)

 言い訳をなけなしの勇気で伝えて、彼らに背中を向けて急いで教室を出る。たいして食べられなかったお弁当は、机の上に広げられたままだ。