翌朝、香苗は紙袋を見ては溜息をつく。

 一晩明けて、冷静さが戻ってきていた。

 昨日の行動は最低だ。自分が振られたからと言って、あれは良くない。だから謝らなければならないと思うけれど、明日美に謝るのは慣れていない。
「ごめんね」は自分の価値を下げるような気がして言いたくない。


「あら、今日明日美ちゃん遅いわね」


 母親の言葉に、香苗を顔を上げて時計を見る。いつもなら五分前にはチャイムが鳴らされているはずだ。


「たまには私が迎えに行くわよ。行ってきます」


 親には気付かれないような普通の態度を通して、香苗は家を出た。俊介から預かった漫画の紙袋は持っている。

(大丈夫、これを渡すって口実もあるし)

 ゆっくり歩いたところで、隣の明日美の家までは二分もかからない。一呼吸吐き出してから、意を決して明日美の家の玄関ベルを押した。
 すぐに明日美の母親が出てきたが、香苗を見ると怪訝そうな顔をして頬に手を当てる。


「あら、香苗ちゃん。明日美と一緒に行かなかったの? あの子、今日はなんか学校行事があるからって、すごく早くから出て行ったんだけど」

「あ、そうですか。じゃ、これ渡しておいてください。渡せば分かると思うので」

「ええ。あら? 漫画? 香苗ちゃんもこんなの読むのね? それとも明日美が貸したのかしら」

「そんな感じです」


 にこやかに笑う明日美の母親を見ていると、明日美が家族に何も言っていないことが分かる。そして嘘をついてまで家を早く出たということは、香苗とは顔を合わせたくないのだろう。