「……もう遅いから。今日は話さない。あの子の家の親は結構厳しいから。三笠くんもあんまり夜に押しかけない方がいいわよ。紙袋は明日の朝、私が渡しておくから」

「んー。じゃ、頼むな。変な誤解も解いておいてくれよ」

「うん。分かった」

「じゃーな」


 俊介は手を振って振り返ると、暗い道路を小走りで去っていく。足が長いからか見る見るうちに小さくなった。

(アイツ……家どこだっけ)

 同じ中学じゃなかったんだから、そう近くはないはずだ。なのに、昼に会ってもわざわざ家までくるくらい、明日美のことが好きなのか。

そこまで考えて、香苗は自分の顔が歪んでいるような気がして頬を叩いた。

(やめよ、みっともない)

 明日美の幸せを妬む程、了見の狭い自分がイヤになる。すっかりぐちゃぐちゃになってしまった顔を見られないように、ハンカチで抑えながら家に戻った。