振られてしまったことよりも、軽々しく忠志と付き合ってしまった自分が悔しかった。琴美の紹介で付き合って一ヶ月。香苗の普段の生活には興味がないのに、会う時だけ優しく言葉を尽くしてくれた彼。
 
(最初から……体目当てだったのかな)

 そんな人だと気づけなかった自分が情けなくて、香苗は唇をかみしめる。


「大丈夫か?」


 俊介は香苗の肩を掴んで、顔を覗き込んできた。その手を腕で弾き飛ばすようにして、香苗は顔の前に手を当てる。


「見ないでよ。タイミング悪かっただけ。……私、さっき振られたばっかりなの。で、……ちょっとだけ誰かに寄りかかりたくなっただけよ」

「え? あ、じゃあ怒鳴ってごめん。悪かった。でもよ、知らない男にいきなり抱き着くとか危ないぞ」


 俊介は申し訳なさそうに頭の後ろをかく。素直な態度を見て、香苗の気持ちも収まってきた。

(いい奴じゃないの。オタクだけど。……明日美も中々やるものね)

 自分が波風を立てたというのに、香苗はそんな風に思った。そして気を取り直して涙をぬぐう。


「明日美にそれ渡すの? 私が渡そうか」

「ああ。頼める? 折角きたから話でもって思ったんだけど。今日はお前の方が我妻に話聞いてもらいたいよな、友達だもん」


 俊介は気遣うように笑う。

(友達だったら当然? 明日美とはそんな話したことないけど)

 付き合ってた人が居るだなんて話さえしてないのに、振られた相談なんかする訳ない。そう考えると自分と明日美は友達なのか、疑問になる。