苛立ちは嵐のような激しさで香苗を突き動かす。


「三笠くん」

「え?」


 俊介が振り向く一瞬の隙を逃さず、香苗は彼の胸元へ飛び込んだ。


「え? 誰?」


 驚いた俊介の手から、紙袋が落ちる。それと同時に明日美の家の玄関ドアが開く。


「……香苗、ちゃん」


 震えるような声に、してやったという気分で顔を上げる。玄関ドアの隙間から、青くなっている明日美の姿。すぐにドアは閉められて、香苗は俊介の手によって引き離される。


「何なんだよ! ……あれ、松崎か」


 顔を確認して、それがクラスメートであると認識した俊介は、声を抑えた。香苗はすぐにパッと離れて、何事もなかったように笑う。


「そうよ。こんなところで何してんの」

「お前こそなんで抱きついてくんだよ。あーもう、誤解されたかも」

「……明日美に?」


 上目づかいで見ると、俊介は不思議そうに香苗を見返す。


「なに? 友達」

「私の家はあそこのアパートだもの。幼馴染なのよ」

「へぇ。なんか意外。それにしてもなんなんだよ。誤解とかなきゃ。俺、我妻に漫画貸しに来ただけなのに」

「まんがぁ?」


(流石オタク)


 香苗は思わず笑いだしたが、それは長く続かなかった。やがて喉が詰まってきて、勝手に涙がこぼれてくる。それは止めようとしても止まらず、熱いのどからは嗚咽が漏れてきた。


「おい、どうした松崎」

「なんでもな……」

(やばい。……止まらない)