勝の家で、酔っ払ってくっつき合っていた勝と琴美が、香苗の脳裏を横切った。確かに、あの勢いなら二人が一線を越える可能性は高い。

 高校二年にもなれば、初体験を済ましている子も数人は居る。そしてそのタイプは、経験者であることを誇らしげに話す。

(そうだ。琴美もきっと……)

 香苗の体から徐々に力が抜けてくる。琴美はきっと勝に抱かれる。そしてそれを誇らしげに語るだろう。

(だったら、私もここで)

 香苗は薄目を開けた。興奮気味の忠志の顔は色気が加わって艶っぽく格好いい。恋の相手として、申し分などなかったはずだ。

(この人と、ここで。ハジメテを体験しても、……いいのか)

 香苗は瞳を閉じる。忠志の唇が再び重なってきて、手がお腹から下の方へと這っていく。追い払ったはずの不安がまた首をもたげる。

(でも、やっぱり)

 迷った一瞬、脳裏に明日美の姿が浮かんだ。自分の意志と違う時にする、不満そうな顔と頑なな態度。何度も香苗が腹を立ててきたあの顔が、頭の中で香苗を見つめ続ける。

(明日美なら、きっとしない)

 違和感があるなら、迷っているなら、きっとしない。そう思った途端、今の自分に怖気が立った。

(ハジメテが、こんな風に流されて終わっていいの?)


「やめて」

 香苗が大きな声を出すと、それまで自由に体中を這いまわっていた忠志の手がぴたりと止まった。

「香苗?」

「ごめん、やっぱり今日はイヤ。酔ってるし、私」

「何だよ、気持ちよく無かった?」

「そうじゃなくて」


 明らかにムッとしていく忠志に、香苗も焦ってくる。
 だけど、一度壊れてしまった雰囲気は戻るはずもなく、裸で居ることが恥ずかしい空気に、香苗は手を伸ばして服をとり自分の前を隠す。