「何にも要らないよ」

「ん。お茶だけ。酔い覚ましに」

「ありがと」


 二人きりの空間は落ち着かず、日中の熱がこもっているのか忠志の部屋は少し熱いくらいだった。額に汗を感じて、香苗は落ち着かずにつばを飲み込んだ。気を紛らわすためにと、音量を大きくしたテレビだけが騒がしい。


「ほい、お待たせ」


 目の前に置かれたお茶の入ったグラスを、香苗は一気に半分ほど飲んだ。体中にしみわたっていく感覚に、体内のアルコールが薄められる気がしてほっと息をついた。


「今日、楽しかったな」


 忠志が香苗の隣に座る。左側が全部触れる距離に、香苗は動揺し、残り半分のお茶を飲みほした。グラスを置くと、大きな忠志の手が香苗のそれに重なる。覚ましたはずの酔いが戻ってきたかのように、香苗の顔に赤みがさす。


「た、忠志くん?」

「好きだよ」


 ふわりと落ちてくる唇が、一度触れあう。香苗は一瞬体をこわばらせたが、二度三度と繰り返される度に、体から力が抜け、彼にもたれかかった。

(なんか、……すごいキス)

 香苗は、別に奥手ではない。キスは数人いる歴代彼氏と何度もしていた。でもそれは外で、触れてすぐ離れるような初々しいものだった。でも忠志のキスは違う。息が熱くて、離れてもすぐ戻ってくる。そして次は先ほどより濃密なキスへと変わる。

 忠志は香苗を抱きしめ、そのまま床へと押し倒した。香苗の頭を押さえていた忠志の手が、床について小さな音を立てる。


「あ、の……ふっ」


 声はキスに飲見込まれる。頬を滑る忠志の指はかさついていて、香苗は時々痛みにハッとする。忠志はそれに気づいた様子もなく、右手を胸元へと移動した。