鍵を開けて入ってく忠志の後を、香苗は素直について行く。けれど、部屋に充満している汗のような匂いに、香苗はハッとして立ち止まった。


「……どうした?」


 不思議そうに覗きこむ忠志に、笑おうとした香苗の口の端がぎこちなく歪んだ。

(私、何してるの)

 忠志は男で、香苗の彼氏だ。部屋に誘われることの意味を、どうしてもっとちゃんと考えなかったんだろう。

 そんな香苗の焦りが伝わるのか、忠志は手早く肩を抱き寄せて香苗を部屋に入れ、扉に鍵をかける。


「忠志くん、あの」

「入りなよ。怖がらないで」

「でも、……その」

「なにもしないって。酔いを覚ましたいんでしょ」


 忠志の笑顔は優しそうで、彼は無理強いはしないだろうという判断して、靴を脱いで部屋に上がった。

 雑然とした部屋はいかにも男の部屋という感じだが、積み重なっている難しそうな学術本が、彼が大学生である事を物語っていた。


「座ってなよ」


 テレビをつけて、忠志はキッチンの方へと向かった。香苗はどこに座ろうかと迷った。奥にベッド、そこから対角線上にテレビがあり、真ん中に円形のローテーブルが置かれている。テレビが見える位置と思うと当然ベッド側になるが、それはそれで落ち着かない。結局、中間の位置に正座した。