いつもの朝がやってきて、いつものように香苗と明日美は一緒に登校する。しかし、いつもとは違う明日美の言葉に香苗は目を丸くした。


「私に似合う服ってどんなんだろう……」

「え?」

「いや、あの。……ごめん、なんでもない」


 明日美は恥ずかしそうに口ごもったが、長年の経験から、真剣に悩んでいるのは分かる。しばらくナリをひそめていた香苗のおせっかい虫が疼いた。


「何よ。私服? 見立ててあげようか?」

「ち、違うの」

「違くないよ。服で悩んでるんでしょ。学校帰ってからアンタの家行くから」

「……うん。ありがとう」


 顔を真っ赤にしたまま、明日美はうつむいてしまう。


(服装を気にするなんて、好きな男でも出来た?)


 香苗は横目で明日美を見ながら考える。

 香苗と明日美の間では、恋愛話はタブーだった。別にどちらかがそう決めたというわけでもなく、いつの間にか出来上がってしまった姉妹に似た関係性がそうさせていた。
家族には気恥ずかしくて彼氏の話なんてできない。同じような感覚で、香苗はこれまで付き合った人の誰一人として、明日美に紹介した事はなかった。

 だから、今回も深く追及しようとは思わなかった。