夜も九時を回ろうかという時間で、四人は帰路についた。香苗と琴美の自宅方面のバスが通るバスプールに向かっていると、忠志が香苗の腕を掴む。


「なに?」

「ん?」


 今日はなんだかスキンシップが多い。笑みを浮かべたまま近づいてくる忠志の顔に驚いて、香苗は思わず身を引いた。


「ちょっと、何?」

「何って、キス。イヤ?」

「だって。こんなところで」

「だってほら」


 忠志が指差す方向では、琴美と勝が人目もはばからず抱き合っている。肩を組んで、何度か交わされるついばむようなキスに、香苗の方が顔が熱くなってきた。


「琴美ってば……」

「俺らも、いいでしょ」

「でも」
 

 返事をする前に、顔に陰かかかり唇がかすめ取られた。ほんの一瞬の軽いキス。目を閉じている暇さえなく、本当のことかどうかを疑うほど。


「今度、ゆっくり会おうか」

「う、……うん」


 そう言って片眼をつぶる忠志は、格好いいと香苗も思う。
 戸惑っているうちに、手が引っ張られ前へと歩き出す。


(だけど)

 唇を押さえながら、香苗は自分自身に問いかける。

(どうしてだろう。今のキスは、嬉しいと思えなかった)