佐野くんが笑ってくれたから、あたしはほっと一安心する。

今なら佐野くんに、ちゃんと話を聞いてもらえそうな気がした。


「あのね、佐野くん――」
「早瀬、俺――」

話を切り出そうとすると、あたしと佐野くんの声が重なる。

あたし達はお互い顔を見合わせてちょっと笑ったあと、また同時に口を開いた。


「何、佐野くん?」
「あ、何?」

二人の声が重なって、少し沈黙ができる。


「あ、佐野くんのほうから喋っていいよ」

あたしが笑いながら佐野くんを促すと、ちょっと躊躇ってから佐野くんが口を開く。


「俺――」
「翠都!早瀬さん!」

けれど、何か言いかけた佐野くんの言葉は明るく元気のいい声に思い切り遮ぎられた。


「高崎」

話の腰を折られた佐野くんが、ちょっと迷惑そうに眉をしかめる。