午後の授業が終わるとすぐに、あたしは佐野くんの教室へと急いだ。

教室のドアからじっと佐野くんを見つめていると、そんなあたしに気付いた彼が近づいてくる。


「どうかした?」

近づいてきた佐野くんの声はどこか冷たくて、まだ少し怒っているみたいだった。


「うん、あのね。ちょっと話が……」

何から切り出そうか迷っていると、佐野くんがあたしの左膝を指差した。


「早瀬、それ」

佐野くんがあたしの左膝に仰々しく貼られたガーゼを見て、心配そうな顔をする。


「あぁ、ちょっと昼休みに転んで擦りむいてしまって。大したことないのに保健の先生ってば大きなガーゼ貼ってくれて。大袈裟なの」

恥ずかしいのを誤魔化したくて、ふふっと笑う。

すると佐野くんはオレンジ色の髪をくしゃりと掻きあげながら、「そっか」とつぶやいた。


「高崎の―――ってんのかと思った」

「え?」


佐野くんの言葉がよく聞き取れなくて首を傾げる。

けれど佐野くんは、にこりと笑って首を横に振るだけだった。