「俺、早瀬のこと見損なった」

佐野くんの冷たい瞳を見つめ返しながら困っていると、彼が低い声でつぶやいてあたしから視線を逸らした。

それからすっと踵を返すと、あたしを体育館の裏に残してひとりで歩き去ろうとする。


「佐野くん?」

慌てて追いかけたけれど、佐野くんは立ち止まることも振り返ることもしなかった。


「佐野くん!」

佐野くんを追いかけながらもう一度名前を呼んだとき、足が体育館と校舎の間を繋ぐ廊下の段差に蹴躓く。


「いたっ」

あたしはそのまま前に倒れて、膝から地面に落ちた。

唇を噛んで膝に響く衝撃をじっと堪える。

顔を上げると、佐野くんは廊下のずっと先の方を歩いていた。

いつか人混みの中で転んだあたしを助け起こしてくれた佐野くんは、今あたしが転んでいることには気付かない。


どんどんと歩いて行ってしまう。