町村さんがなぜ佐野くんにそんなふうに言ったのかがわからない。

確かに彼女がプールに落ちたのはあたしの不注意だ。

だけど、わざと突き落としたわけじゃない。

こっちの言い分を伝えようとしたけれど、佐野くんはあたしの言葉なんて聞くつもりはなさそうだった。


「怖い思いさせたこと、町村さんにもう一度謝る。だけどあたしは――…」
「奈緒は当分早瀬の顔見たくないって」


「そう……」

そんなに怖い思いをさせたんだ……

そうだよね。あたしも、プールに投げ出されて身動きとれなくなったとき。

それがずっと小さなトラウマになるほど怖かった。

うつむくあたしを、佐野くんがやや侮蔑のこもった眼差しで見つめるのがわかる。

いつも優しい佐野くんが、今日は完全にあたしを否定していた。


「奈緒に何の恨みがあるのか知らないけど、早瀬がそういうことするやつだとは思わなかった。昨日だって、奈緒の安否よりも別のこと心配してたみたいだし」

「だってあのときは――」

「あのときは、何?」

「いい。そのことはもう」