わたしは帰りたかった。
でも、いくらなんでもさっきまで普通だったわたしが帰るなんて、由実ちゃんは許さないだろう。明日から、イジメられる対象になってしまうかもしれない。

それだったら、この胸騒ぎを感じるのは自分だけなんだから、少しの間だもん、頑張ってガマンしよう。

「そっか。わたしは、頑張るよ。二人で帰ったら、何か怪しいジャン」

「……それもそうだね。それじゃ、もう行くよ」

「うん、気をつけてね。……バイバイ」

「バイバイっ」

別れの挨拶をすますと、加奈ちゃんはさっきの由実ちゃんよりも速く、また、颯爽と走っていった。あの様子を見ると、時間は大丈夫なのだろうか。
……いや、今は自分の心配もしなければ。

何にせよ、由実ちゃんの意見には絶対同意する。
反対なんてしようものなら、わたしはもう“敵”となってしまう。

彼女の止まることのない話に、ただうなずいていればいい。

両手を握り締めて、決意したわたしの目の前を、誰かが通り過ぎた。

一瞬目に入っただけなのに、わたしはその残像を目に焼き付けることが出来た。
だって、ものすごく、すごい人だったから。