「……べつに。髪の毛、家で結ぶ時間がなかったから……」
「うそをつけっ!」

歯を食いしばるように、トシオはわたしを睨みつけ、つかつかとわたしの席まで歩み寄ってくる。

何だかんだ、今の今まで何の問題もなく女子中学生をやってきたわたしが、こうやって怒りの的になるなんて、きっと誰も予想していなかっただろう。

わたしだって、まさか、と思った。
だけど、最近由実ちゃんたちと話しているところを見られてる感はあったから、いずれはこうなる運命にあったのかもしれない、と冷静に考えてそう思った。

「たてっ!」


トシオは眼鏡の奥に、憎しみをひそませながら、わたしの目を見る。
負けるもんか、とわたしもバン、と立ち上がり、張り合って目を逸らさない。


火花の散りそうな両者のにらみ合いを、カケルくんをはじめとするクラスの全員が、固唾を呑んで見守っていた。