「あっ、あのね。加奈ちゃん……わたし、わたし……」

ピタッと立ち止まり、加奈ちゃんの顔も見れず、わたしは自分のつま先を凝視する。
真っ白のスニーカーだけど、先っぽは泥や砂で汚れている。


その汚れを目に焼き付けながら、のどの奥から、声を振り絞る。

「きのう、すごい人にあったの!」

こう言って顔を上げ、加奈ちゃんの顔を見る。
ぽかん、とわたしの言ったことが意味わからない、とでも言うように、首をかしげる。

「すごい、って? 何がどう、すごいの?」
「ミーハーかもしれないけど、真剣に聞いてね。オーラなの。その人の持つ雰囲気っていうかね、周りの空気が全然違うの」

「それが、結局?」
「ちょー、カッコいいわけ」
「あっそ」

加奈ちゃんは、呆れるような顔をして、また歩き出す。
「加奈ちゃんは、見たことないからだよ」
「だからぁ? あたしは、そんな顔とかだけで人を決めないナァ……」

この余裕が、わたしの心を妙にざわつかせた。
加奈ちゃんは、見てないからなんだ。
あの、輝きを。
あの、輝きにさす一瞬の影を。