「きのうさぁ、あの後歯医者もうめっちゃ恐かったぁ」
「アハハ! あの、キュイーンって音がイヤだよね」
「そうそう」

加奈ちゃんは、昨日あったことをわたしに話してくれている。
……わたしは?

あの、キラキラの今野先輩のことを、話した方がいいのかな?
でも、何だか話して存在を知られたら、わたしだけの今野さんじゃなくなってしまうような気がして。

このごに及んでまだ、わたしは彼を自分だけのもの、と思い込んでいるみたい。
どうせ、同じ学年の人気者だろうし、好きだった人までいるっていうのに、わたしはあの人と話したのはわたしだけ、というような錯覚に陥っている。

言うか、言うまいか……。
迷ったけれど、やっぱり加奈ちゃんはわたしの親友だ。
隠しておいて、後でまずいことになっても困る。
わたしはつとめて平然と、今野さんの話を始めた。