「おいしい?」
ひんやりしたココアが口内に入ると同時に、コンちゃんさんはわたしの顔を覗き込むようにして、聞いてきた。

「…………!」
声は当然出せずに、コクンコクンと大げさに首を上下する。

「そっか、うまいか。よかったな」
「っ、はい」

ストローから唇をはなして、今度はキチンと返事する。

「あのさぁ……いまさらなんだけど、名前なんてーの?」
そうだった、わたしはコンちゃんというニックネームを知っていたけど、この人はわたしがどこの誰かも分からないんだ。

ちくん、と胸が若干痛んだのは、気のせいなんかじゃない。
今も、また、針で刺したように心臓のあたりが痛む。
「左右田瑞樹っていいます」
そうだ? と聞かれわたしは、地面の砂の上に、近くに転がっていた石ころを使って、左右の田んぼ、と書いてみせた。