「あー食った食った」

「ごちそうさまでした」



篠崎さんが欠伸をする。時刻は深夜11時を既に回っていた。もうすぐ終電の時間だ。これに乗り遅れれば、私は5つも先の駅まで歩いて帰らなければいけなくなる。勿論、そうもなれば近くのビジネスホテルに泊まるけど。




「いやぁ、それにしてもいい食べっぷりだったね。見ててスカッとするよ」

「それは褒めてます?貶してます?」

「褒めてんの!大食い女子、悪くないと思うよ?」

「別に日頃から大食いな訳じゃ無いですよ。今日はちょっとお腹減ってただけです」

「ふーん」




駅方面に向かって並んで歩く。そう都会ではないこの町の駅は結構歩くのだ。大して街灯もついてない道をひたすら歩く。




「じゃ、俺こっちだから。気を付けて帰れよ。後、遅刻すんな」

「はい、さようなら」




駅の近辺に住んでいるという篠崎さん。良いですよね、そういう人は。遅刻しても会社近いから。私なんか駅5つ分ですよーだ。




「………ふぁ、眠い」



ヤバイ。

また寝不足になる。



もうペナルティは勘弁だ。いかにも頭の固そうな顔をしている自分の上司を思い浮かべて、うわぁと思わず呟いた。







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「はー、帰宅帰宅っと」




カバンを投げ出して、私はリビングのソファーにもたれこむ。床には今朝広げていた新聞がそのまま。




「………私には、もう関係の無いことだし」




そういって新聞を閉じてしまった。胸が微かにチクリと痛む。



『アイツは関係ない。もう関係ない。大丈夫。その為にここまで来たんだから。』



自分に強く言い聞かせる。胸に手を当てて、必死にフラッシュバックする過去を消し去る。





"好きだ。"




違う、駄目なの。




"俺と付き合って。"




ムリだよ、付き合えない………。




そうしているうちに、胸がキュウと締め付けられるように痛くなって、みるみる生暖かい水が頬を伝う。







 




「…………好きだよ、朱春っ……」








ーーーゴメンナサイ。