「置いてかれちゃったね」


この前を思い出させるような口調で――あたしを、試すような口調で、カイ先輩があたしを笑った。


「そんなことないですよ……」


なにも感じてないふりをして、あたしは首を振った。

でも、その語尾は震えていた。


「可哀想に……おまえの好きな男は冷たいな」


「――――……」


ぐっと唇を噛んだ。

それが正論だったから、あたしは何も言えなかった。


その時、あたしのカバンの中のケータイが鳴った。

ついこないだ、森川さん専用に設定した着信音。

慌てて開くと、ディスプレイの中で可愛いクマのキャラクターが、あたしに向かって受話器を差し出している。


「――はい……」


部室からそっと出て、あたしは電話をとった。


『言い忘れてた。明日、11時に迎えにいくよ』


いつも通りの森川さんの声に、あたしは泣きたくなった。

彼の考えてることがわからなくて、もどかしい。


『ドライブ、どこ行きたいか考えといて』


でも彼と、繋がっていたことが嬉しくて――電話だというのに、あたしはケータイを握りしめたまま大きくうなずいた。