「……中林さん」














「――――……」


驚いて、何も言えなかった。


「それ、取ってくれない?」




“中林さん”




自分だけが固まって動けなくなったようだった。

森川さんの瞳を見つめたまま、あたしは止まってしまっていた。


「――どうしたんだよ、薫」


カイ先輩の声に、凍りついていた頭がようやく動きだし――あたしは慌てて、ソファから腰を浮かしお土産に手を伸ばした。


「あ、あ……すみませんっ」


おそるおそる森川さんに手渡すと、彼はただありがとう、とひとこと口にしただけだった。

あたしはそのままうつむき、制服のスカートを小さく握りしめた。


「森川……最近あんまり部室来てなかったな」


カイ先輩の、少しだけ意味深なその問いかけにも――森川さんは涼しい顔をしたままで、さらりと答えた。


「レポートに追われてました。実験のレポートが今日までに提出だったんです」


あたしはそんなふたりのやりとりを、下を向いたままぼんやりと聞いていた。