ほんとは――はじめから怒ってなんかない。

ただ、悲しかっただけ。


「よかったよかった、姫が笑顔になった」


屈託なく笑うカイ先輩の隣で、あたしはますます切なくなった。


「“姫”なんて……そんな呼び方しないでください」


大人げないとは思ったけれど、あたしは苦しい気持ちを抑えられなかった。

だって、カイ先輩には――


ほんとうの、
“姫”がいるくせに。



「キャバクラなんか行ったら、カノジョさんに怒られますよ?」


「ははは、もう行かねぇよ」


先輩はバツが悪そうに笑って、あたしの頭を軽くこづいた。


「それよか、おまえ具合は大丈夫なのか?」


「あ、はい!迷惑かけてすみませんでした!」


いつもの空元気で、あたしは先輩に笑顔を見せた。

でも胸の中は、苦しさと嫉妬と、惨めさでいっぱいだ。